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【エピローグ】 君にとっての新しい世界は

2012年01月31日  / カテゴリー:  ショーストッパー-~show-stopper~

ロイドが、パソコンの中から声をかけてくる。
「俊樹様、エリス様からカメラ通信です。すぐにつないでよろしいですか。」
液晶モニターの中には、ハッチのレバーを持ったロイドが映っている。
「へいへい、今でるよー!」
今、俺はエリスとネット友達である。

こちらの世界で目覚めたあの日、卓磨を早朝から家に呼びつけてまとまらない説明をした。

最初は信じてくれなかったものの、興味は持ってくれたらしい。

「サポートベクターマシン」やら「ファジー理論」やら「Eliza」やらブツブツ呟いてから
「まあ、面白そうだ。時間はかかりそうだがな。」
と、ニヤリと笑った。

そして卓磨は、ロイドのアンドロイド計画を進めてくれている。

研究室として使うスペースの確保のため、俺と卓磨はそれぞれが借りていた部屋を出て

古い一軒屋に移った。

かくして、不本意ながら男三人の花がない同居生活が実現したわけである。

身体ができるまで、ロイドはコンピューターの中でペルソナ執事として活動することになった。

働いていないと落ち着かないというロイドのたっての希望で、家中の回線と電化製品を

ロイドのサーバにつなぎ、なるべく自由に動けるように改造したのだ。

ロイドは、さすが元執事だと感嘆する仕事振りを発揮している。

電話対応やメールの整理に始まり、書類作成に銀行決済、洗濯、風呂やキッチン仕事、

空調、電化製品の管理などなど、回線さえ通っていればなんでもござれの超有能ぶりだ。

せっかくこちらの世界にいるのだからと、携帯電話やデジカメやパソコンにロイドが入り

出かけるときに連れて出たりもする。

卓磨も面白がってよく二人で出かけているようだ。

とうとう昨日は、足で移動できるようにペットロボットに入れるようにしてくれとねだられた。

最近のハマリはオヤジギャグらしい。

優雅なしぐさで吐き出された寒いギャグに頭が真っ白になったのは記憶に新しい。

一番幸せを感じるのは、通信でエリスと会話する時間だそうだ。
こっちの世界はどうか、とロイドに聞いたことがある。

ロイドには、エリスが全てだった。

エリスがいない世界は彼の目にどう映っているのか、ずっと気にかかっていた。

彼は少し考えてから、こう答えた。
「俊樹様、卓磨様には本当に感謝しております。

エリス様に直接お会いできないことは寂しいです。

しかしここは、刺激的でとても面白い世界です。興味は尽きません。

もっといろいろなことが知りたい、そう思います。」
一風変わった友人は、俺が思っていたよりずっと強かった。

ロイドはこうも続けた。
「そんなに心配せずとも、大丈夫ですよ。

今まで私の世界には、エリス様しかありませんでした。

欠け月と自分を嘆き、完璧な満月になれたらと妄執にとらわれた。

そしてその視野の狭さと依存が混乱を招いてしまいました。

しかしエリス様の中にいたあなたは、私を一人の人間として正面から向き合ってくださいました。

初めてこの世界に来た日、全てを知った上で、『アークのコピー』ではなく

『ロイド』という人格として生きろと言ってくださいました。

私という、存在をくれました。

あなたに『ロイド』と認められて、私ははじめて私になれたのです。

肉体を持たず作られた心の私ですが、全てまとめて私なのだと受け入れることができました。

だから、依存ではなく。

自立した一個人として、持てる最上の敬愛と尊敬を俊樹様に捧げます。」
と、置く目もなく言ってのけた。

思わずこちらが赤面してしまう。

どうにもこそばゆいけれど、嬉しい言葉だった。

ちなみに様付けと畏まった口調はいくら言っても直らない。

さりげなく頑固である。
もちろん、エリスがロイドの身体を治せれば大団円だ。

けれど万が一不可能だった時の為に、こんな保険をかけておいてもいいだろう。

人生24年。たかが24年、されど24年。

少しは大人の対応もいたしましょう。

このペースで遠い未来、向こうの世界にいける次元跳躍タイムマシーンでもできれば、

ロイドはエリスと再会できるかもしれない。

俺が生きている間には無理かもしれないけれど、彼は半永久的に生き続けられるのだから。

それはある意味とても残酷なことなのかも知れないけれど。

通信が通じた。

機械の調子が悪いのか、エリスがモニターの上を覗き込んでいる。

エリスがカメラについた手のひらに、自分の手を合わせてみた。

モニターに手形が残った。
亡国のお姫様でロイドとアークの想い人、俺に感情を取戻させてくれた直向な少女は、

今日も向こうで笑っている。
<終わり>

【 プロローグ/完 】

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