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【第1話】 船上のお嬢様

2012年01月31日  / カテゴリー:  ショーストッパー-~show-stopper~

連日徹夜。寝食そっちのけでパソコンの前にかじりつき、仕事にいそしんできた。

人として、成人男子として、そこそこ地道にまじめにやってきたつもりだったりするのだ。

なんだってこんなことなになってんだかなぁ、と思わずにはいられないわけなのだ。

サラリ、となびいた長い髪を指先にからめる。

フワフワと風に舞い、肌をくすぐるミルクのようなのレースとリボン。

俺もたいがい役者だな、とひとりごちる。

癖でメガネを押し上げようとして、メガネがないことに気づく。

目の前にあるのは、キーボードを叩き打つ見慣れた指ではなかった。

シルクと同化しそうな白い肌。桜貝のような爪の細い指。

少女がそっと漏らした吐息は、波の音にとけて消えた。
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潮の香りの風を切って進む船。

竜骨の頂に掲げられた女神の像の下では、ロープのこすれる音と甲板を走る音と掛け声。

船の外では、猫のような鳥の鳴き声と羽ばたき、波を越えるタプタプという水音。

ゆっくりと揺れる身体と、髪を梳く凪風。

そっと眼を開ける。

視界には白く強い日差しと、なだらかな曲線を境に鮮やかな空の青、海の青が広がっていた。

別に海で船に揺られていることにはとくに致命的な問題は感じていない。

空に浮いていたらそれなりに驚くだろうが、これならまあ想定の範囲内だろう。

たとえそれが中世ヨーロッパ映画さながらのキャラヴェル帆船だったりエンジンでなく

手漕ぎだったとしても、だ。

「どうなさいましたか、お嬢様。」
ふと影が強い日差しをさえぎり、風を涼しく感じる。

柔らかい笑みとともに、白いレースの日傘が差し向けられていた。

投網が盛んな漁師島で発達したという、華やかで繊細なレース編み。

ああ、こんな傘を母さんが集めてたな。などとどこか遠くで考えてしまう。
「傘をさされませんと、せっかくの白いお肌が焼けてしまいますよ。」
傘をさしむける腕を視線で上っていく。

白い手袋、白いスーツが目にまぶしい。気持ちがっしりした肩幅に細身の筋肉。

ずいぶん見目のいい容姿の、見た目20代後半くらいの青年だった。

柔らかい、優しい、とろけるような、笑顔。瞳と眉の流れが秀逸だ。

力強いのに、舞い手のような手先まで優雅な所作。

都ぶりってこういうこと言うのだろうか。

やさしいブラウンの髪、いつくしむ様に細めれた瞳が印象的だった。

いつだったか、妹が熱弁を振るっていた「理想のお兄ちゃん」像を思い出す。

確か名前をアークといっていた。

なんでも執事らしい。
「お嬢様?」
ちなみに、この傘をはじめ身の回りのレース類は全て彼の作品だ。

彼はお嬢様の身の回りを美しく飾るのが好きらしい。

あれは仕事の域を逸脱していると思う。

俺はぼーっと考え事をしていたのをごまかそうとあわてて口を開いた。
「なんでも…あっ」
なんでもない、と言おうとして顔を上げた瞬間、潮風が帽子をさらった。

とっさに手で押さえようとして間に合わなかったシフォンの帽子を目で追うと

吸い込まれるように1つの手の中に収まっていた。

手の主は帽子をそっと持ったまま、甲板の奥からこちらに歩いてくる。

帽子を丁寧に差し出した。
「どうぞ。」
すっと上げられた顔の笑顔が、華やかで凛々しいな、と思った。
「ありがとう。」
「いいえ。」
思わず微笑み返した。

アークの流れるような物腰と対照的に、メリハリのあるテキパキとした動きに無駄がない。

首もとまでカッチリと覆った白っぽい服に、軽装の鎧と細身の刀。

ゲームの中で見たことのあるような、軽剣士のようないでたち。

少しウェーブのかかった短めの茶色い髪に、アーモンド型の目が上品だ。

凛々しさに隠れて気づかないが、かなりの美人だと思う。

最初は女性だと気づかなかったが。

彼女の名前はナラというらしい。
「ナラさん、お嬢様はお疲れのようなので一度船室に戻ります。お嬢様、よろしいですね。」
「え、ああ…はい。」
急に話を振られてあいまいに返事をしてしまう。
「わかりました。我々は引き続き警護を続けますので、ゆっくりお休みください。」
「よろしくお願いします。」
ナラとアークがテキパキ話を進めていくままに流されていく。

ぼーっとそのやり取りを見ていたら、アークがこっちをチラ、とみて笑っていった。
「ナラさん、お嬢様は船旅に退屈されているようですので、
よろしければ後で何か旅のお話などお聞かせ願えませんか。」
ナラもこっちを見てゆっくり笑う。
「かしこまりました。エリス様のお気に召すといいのですが。」
そういうと、ナラは上空の見張り台に向かって大声をかけた。
「ダイ、今降りてこられるかー?」
すると、見上げた見張り台の横の空間に黒い点が現れた。

見る間に大きくなった黒い塊が、ナラの横に強い振動とともに着地した。

むっくりと起き上がって返事をする。
「……ああ。」
近くでみると思わず見上げてしまうほど大きいそのダイという男は。

真っ直ぐで刈り込まれた黒い髪と通った鼻筋、切れ長の据わった目、

不機嫌に結ばれた口元が特徴的だ。

ごつい骨格と筋肉を覆う分厚い重装の鎧。

背負っている大刀は、普通の人間では持ち上げることもできないのではないだろうか。

ナラと並ぶと対照的で、荒々しいしぐさと無口さは怖いことこの上ない。
「エリス様が後で旅の話を聞きたいそうだ。私がいくか、お前がいくか?」
「…オレは話がうまくない。」
「わかった。では、その間の作業を頼んでいいか。」
「……。」
ダイは返事はせずにうなづいて、倉庫のほうへ向かっていった。

ナラとダイはこの船、もとい俺たちを警護をしてくれているそうだ。

そう考えるとかなり頼もしくもある人物ともいえるだろう。怖いけど。

まあ、こんな面子でどうやら旅をしているようなのである。

なんで他人事のような言い方か、だって?

仕方がないさ、記憶がないんだもの。
気がついたら俺はお嬢様、エリス様。

鏡に映るのは輝くブロンドとお人形のような大きな瞳に華奢な体。

目が覚める前は、たしかインターネットカフェの個人スペースで

オンラインゲームしてたはずなんだよ、俺は。
相葉俊樹、24歳。

ドロップアウト寸前のWEBクリエイター。

可憐さとも、資産家とも縁がない駄目男のはずなんです。

【 第1話/終 】

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