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【第6話】 あたたかい雫

2012年01月31日  / カテゴリー:  ショーストッパー-~show-stopper~

トシキ様…って、それ俺の本名なんですけど。
「ちょっと待ってくれ。ナラ、あなたは俺がエリスじゃないって知っていたわけ?」
こめかみをもみながら尋ねた俺に、ナラはまたもやあっさり答えた。
「はい。トシキ様ご自身がそうおっしゃいましたから。」
じゃあ早くそう言おうよ。

俺お嬢様ぶろうとかなりがんばってしまったよ?

かんなり恥ずかしい人だよ?
「いや、信じてくれるのは嬉しいんだけど。自分で言うのもなんだけど、納得できるの?」
照れ隠しも手伝って、口早に聞いてみる。
「最初は信じていませんでした。人の魂を入れ替えるなんて、魔術でも秘術中の秘術でしょうから。

旅の疲れや心労で、エリス様は記憶喪失になったのではないかと私は思っていました。」
ちょっと困った顔をしてナラが髪をかきあげた。かなり邪魔らしい。
「しかし、アークから聞いていたエリス様の人柄とあなたはあまりにも違いますし、

ロイドが何を考えているのか調べたいということもあり、黙っていました。

私達は本よりアークに頼まれてエリス様の護衛につくつもりだったのですが、

ギルドを通してロイドからもエリス様の護衛の依頼を受けました。

ロイドは私達とアークのつながりを知りません。」
黙ってナラの話を聞く。
「アークは深手を負ってチュエゴに潜伏しましたが、アークの力を持ってすればあの程度の

傷で護衛に差し障りはなかったでしょう。

私はアークに、何故エリス様方に合流しなかったのか理由を聞きました。

アークの話では、ロイドがエリス様を連れ、アークから逃げて船に乗ったということでした。」
ここでロイドに不信感が出てきたというわけか。
「アークは多少思い込みが激しいところがあるのでその時の状況についてはなんともいえませんが、

友人が自身よりも大切にしているエリス様に危険があるのならば黙ってはいらなかった。

そしてロイドがアークを引き離したのだとしたら、アークが合流するのは得策ではありません。

それで私達はギルドから依頼を受けたボディーガードとして、

船旅の途中でチュエゴに立ち寄ったアークと名乗るロイドに雇われました。」
そのあたりか、俺とエリスが入れ替わったのは。
「最初、ロイドは謀反を起こして他国へエリス様を売り渡すつもりかと懸念していたのですが、

ロイドは当初の予定通りエリス様を護衛しつつフォロレッテマーナに向かっていました。

これは私見ですが、彼のエリス様への敬愛は本物です。

アークを遠ざけ、自らをアークと名乗っている点以外に不審な点はありません。」
ナラが少し考えるように俺を見る。
「あ……。」
ロイドが自分をアークと名乗った理由の一つに、俺は思い当たることがあった。

あれは初めてアーク、いやロイドに会った日。

いくら俺がエリスではないと言っても信じなかったロイドは、俺に日記を書かないのかと勧めた。

その日記を読んで、俺は彼がアークだと思い込みロイドをアークと呼んだのだ。

ロイドは一瞬、泣きそうな笑っているような、なんともいえない色に瞳を染めてから返事をした。

これはただの不幸な偶然で、ロイドは主人の戯れだと思っていたのだろうか。

それともロイドは俺がエリスではないと知った上で、自分をアークだと認識させたかったのだろうか。

エリスが記憶喪失な状態だと勘違いした上で、自分をアークだと認識させたかったのだろうか。

どれも、なんだかしっくりこない。

動機がすっぽりと抜けているのだ。

口をあけたまま考え込んでいた俺を見ながら、またナラが話し出す。
「観察の中で私達は、あなたはエリス様ではなくトシキ様であると理解したのですが、

ロイドの様子をみたかったので黙っていました。

このままあの先に見えるフォロレッテマーナに入港する予定だったのですが、

エリス様が乗った船が襲撃されたと聞いたアークが先走り、

アークの代わりにキリタケがエリス様を救出にきた、というわけです。」
それで後をおってきて今に至るわけか。
「なるほどね。なんで俺がエリスじゃないと知った上で黙っていたのかはよくわかった。」
俺は組んでいた腕を解いて一息つく。
「ついでに、俺とエリスが入れ替わっていることを信じてくれるなら、

その原因と元に戻る方法に心当たりはない?」
俺として分かり合えた人がいたことに期待が頭をもたげ、だめもとで聞いてみる。

ナラは申し訳ない、前置きする。
「原因と元に戻る方法を、私は知りません。

しかし私が納得した理由ならばもう一つ話せます。

カンタベリアの血をひくエリス様ならばありえると、思ったからです。」
俺は思わず眉間に力が入った。
「……どういうことかな?」
まだこの「エリス様」には秘密がある、と?

亡国のお姫様ネタがきて異世界人を召喚するようなお嬢さんだ。

そろそろ何がきても驚かない気がする。

じっと俺の顔を注視しわずかに唇を開きかけ、一度閉じてからナラは言った。
「……カンタベリアの血については、アークから説明したほうが良いと思います。

私が軽々しく口にして良い内容ではないと思いますから。」
————————————————————————

小船でどんぶらと揺られ、俺たちはフォロレッテマーナに到着した。

フォロレッテマーナの町は古くは要塞都市として知られ、

港と切り立った絶壁、そこに広がる葡萄の段々畑の景観が特徴的だ。

港のある入り江に入っていくと、キリタケは入り江の一番はしに船をつけた。

港の中心部から人が一人、こちらに向かって走ってくる。

キリタケが馴れた手つきで縄を杭にかけて船を固定した。
「ゆっくり、バランスをとりながらお立ち上がりください。舟が転覆することもありますから。」
小舟からひらりと降りたナラが、手をとりながら俺を地面に降ろしてくれた。

後ろから、ロイドを抱えたダイがガシャガシャと降りてくる。

キリタケはいつの間にか船から降りていて、走ってくる人影に合図を送っていた。

かなりの距離を走ってきたその人影は、キリタケと簡単に言葉を交わして足早に歩み寄ってきた。

ああ、この顔は……。
「エリス様、ご無事で何よりでした……。」
そういってエリスの前にかしずき、手をとってキスをした。

「アーク」だった。

驚くほどにロイドに似ている。髪と瞳の色以外の外見的相違点を探すことが難しい。

そしてその気障で舞台役者並みに決まっている動作にも驚かされた。

なんていうか、こなれている。無駄がない動きだよなと感心した。

さらっとこういうことできるあたり異国の人だよなー……としみじみする。
「アーク。キリタケから聞いていると思うが、今エリス様の魂はトシキ様が…。」
ナラが言い終わるのを邪魔して、キリタケがニヤニヤ笑いながら声をかける。
「アーク、なーに気取ってんだよぉ。愛しのお嬢がやっと会いにきてくれたんだぜぇ?」
一瞬うつむいたアークの、握ったこぶしが小刻みに震えている。

すっくと立ち上がると一言。
「エリス様、ご無礼をお許しください。」
暖かい腕で引き寄せて抱きしめられた。

宝物を守るように強く締め付けられて、アークの思いの丈を垣間見た気がした。
「貴女と離れて身を案ずる毎日に、流れる日々の長さを知りました。

すぐにお迎えにあがらなかったこと、どうかお許しください。」
くぐもった声に顔を上げると、肩口に暖かい水分が落ちた。

見てはいけない気がして、俺は顔を上げられなかった。

大の男が泣いている姿ってあまり見なし、見られたくないだろう。

なんだか、自分の胸の辺りが暖かい。

優しくて、ほっこりとした、この優しい気持ち。

こんな暖かい感覚は、もうすっかり忘れていた。

ああ、なんかわかった。

エリスちゃん、君はこの執事が好きなんだね。

ふたりの強くて暖かい感情に、ちょっと感動している俺がいた。

アークはエリスの髪に顔を埋めて、耳元でうっとりと呟く。
「ああ、暖かくて柔らかい。エリスの、いい香りがする。」
囁くなよ。あまりの口説きっぷりに、今度は大慌てだ。

俺には絶対にできない気障なしぐさに台詞。

こんなこと気恥ずかしくて普通いえないだろっ!

エリスは毎日こんなことを言われていたのだろうか。

さぞ心臓に悪いだろう。

いや、幸せなのか?

俺があわあわと慌てていると、
「気持ちはよく分かるのだが……。人目を引くので続きは室内で頼む。」
ナラが苦笑しながらアークをとめた。

————————————————————————
キリタケの先導で、俺たちは宿屋の一室におさまった。

アークはエリスを抱え込んで放さなかった。
「エリス様、よく顔をみせて。ああ、こんなにやつれて……。」
悲痛に表情をゆがめ、今にも泣き出しそうにして見つめてくるので居心地が悪い。
「や、そんなに変わってないと思うんだけど……。」
はは、と乾いた笑いを俺が漏らし始めた頃、ナラがアークを落ち着かせようとする。
「アーク、エリス様の魂は今トシキ様であることも含めて、そろそろ本題に入りたいのだが……。」
微妙に牽制している。

宿に落ち着いてから、かれこれ3時間ほどたっていた。

途中、ナラが作ってくれたペスカトーレとオリーブのサラダを食べている間もこの調子だった。
「私のエリス様……。たとえ魂が別人でもエリス様の香りがします。」
俺、甘さにちょっと疲れてきたんだけど……。
「あの、アーク。まずロイドをちゃんと治療してあげたいんだけど……。」
向き合って言うと、アークはしぶしぶと手を放した。
「……ロイドの治療ができるのはあなただけです。」
複雑な表情をしてアークが応じる。
「アーク、そこのところからトシキ様にご説明差し上げてほしい。」
やっと話ができる、というナラの声が聞こえそうだ。

ナラはほっとしたようにアークに頼んだ。

ダイは黙って椅子に座っている。

キリタケはベットに寝転がり眠っていた。

少し考えて、アークが口を開く。

「……わかりました。窓を閉めてください。全員、他言無用でお願いします。」

【 第6話/終 】

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