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【11th 御礼】ホワイトデーと紳士育成計画【ショーストッパー番外】

2012年02月29日  / カテゴリー:  ショーストッパー-~show-stopper~

「俊樹様、ホワイトデーのお返しの品ですが……」

帰宅後、いつものように夕食を終えて茶をすすっていると、ロイドが話しかけてくる。

「あ、何個か考えてるんだけど、後ちょっと相談に乗ってくれないかな」

会社や取引先に、実家の母。
誰に何を返すべきか、予算はどの程度で組むべきか。
こと女性への配慮に関するロイドのバランス感覚について、俺は全面の信頼を置いている。

それはロイドが家へ来て最初のバレンタインデーの出来事に起因する。

*****************************************************

その日俺はのんきに、昼食は気に入りのラーメン屋のつけ麺に決めてデスクを立った。

「昼休憩いただきますー」
「いってらっしゃ~い」

上司がひらひらと手を振る。
前に勤めていた会社では考えられないフレンドリーさだ。
担当案件で急な修正が入ったため、今日は遅めの昼食だ。
周りは昼食を終え、ほぼ戻ってきているようだった。
PCの社内グループウェアのメッセンジャーを「退席」状態に変更し、ボトムに突っ込んであるスマフォと財布を確認してフロアのドアでIDカードを認証しようとしたところでドアが開いた。

「あ、ごめん。」

大荷物を抱えて前が見えなかったらしい、ドアから入ってきた女性の荷物に腕を当ててしまった。
同期で(とはいっても彼女は新卒で俺は中途採用だけど)総務にいる高橋さんは、

「こちらこそすみません」

とダンボールの横から顔をのぞかせて謝ってくる。

「すごい荷物だけど、持とうか? 」

ドアを手で押さえながら手を出したが、

「これかさばりますけど軽いから大丈夫ですよ。台車がなくても持てるかなーと思ったらいけました。」

「そう?重かったら言ってね」

ダンボールの隙間からはピンクの紙やリボンが覗いている。
何かの備品か?と思いながら道をあけたら、上司がひょいひょいとこちらへ向かってきた。

「高橋さん、それはもしかして……。」

先ほど俺に振った手でフチなし眼鏡を押し上げながら、そわそわしている。

「チョコレートです。今ほかの階でも配ってますよ。」

にっこりと高橋さんが笑って答える。

「やった!今年はどこの?」

「ベルギーのレオニダスだそうです」

「社長最高ー!」

デザイン部の責任者、篠原さんは無類のチョコ好きだったと、今思い出した俺だった。
社長と篠原さんは社内で甘党の会を結成している仲間らしい。
(ちなみにほかにもフットサルサークルや登山やマラソンサークルとならんで、社内でも認知されている)

「今年のチョコどこのか、社長に聞いても全然教えてくれないんだもーん」

両手を合わせてくねりながら乙女的発言をしても引かれないのは、篠原さんの人柄だよなぁ、と不惑を過ぎた上司を思う。

前の会社は殺伐としたいわゆるブラック企業だったせいか、こういうイベント事が会社で行われるのは慣れていなくて、少しくすぐったい。
バレンタインデーには、会社から男女問わずスイーツ(主にチョコレート)をプレゼント。ホワイトデーもまた然り。
それ以外にも、デザイン部はトップの篠原さんが甘いもの好きなこともあり、部内でも有志でチョコを贈りあうというか試食会が開催されるらしい。

「ちょうどみんな帰ってきたし、チョコ会開いちゃおうか!」

篠原さんの合図で、みんながチョコレートを抱えて集まってくる。
事前に聞いていたので、入社して最初の一年ということもあって参加する旨を伝えていた。
何を用意していいのか分からず、うけ狙いでコンビニで国民的駄菓子のチョコ味をまとめて買ってきてみた。

みんなの反応はって?
一言で言えば、はずしたのである。

やばい。みんなえらくキラキラしたチョコレートというか、宝石みたいなチョコレートが山積みにされたのだ。
パッケージがとてつもなく可愛いし綺麗だ。
配色とか参考にしたいものもゴロゴロしている。
その場ではみんな喜んでくれたのだが、午後に給湯室前を通ったときに俺は聞いてしまったのだ。

「相葉さん、デザインは完成度高いのになんで本人はモサイのかね~」

この声は、前の席の岸川さんとみた。
俺は思わず足を止めてしまった。
別に盗み聞きしたわけではない。

「駄菓子、好きだけどあのタイミングであれはちょっとね。服とかもなんかこう、やりすぎか気を抜きすぎの両極端だし。あれじゃ外回りやディレクション厳しくない?」

諸君、俺のショックを分かっていただけるだろうか。
女史怖い。本当に怖い。
モサクて悪かったな!

ああもう、気づかなきゃよかったと給湯室前を抜けてトイレへ行こうと一歩踏み出したところで篠原さんと目が合ってしまった。
にかーっと笑った篠原さんは俺を手招いた。
窓際のガラスで仕切られたミーティングスペースには誰もいなかった。

「相葉ちゃんいわれちゃったね~。女性陣の観察眼は怖いよ。
僕らはこういう仕事だから、それなりにセンスが期待される部分もあるんだろうけど、
余所行きの顔っていうかね、社外にでることも考えた気遣いっていうのかね。
今後ディレクションやプロデュースだってやっていきたいなら、そういう部分も気をつけないとね。
自然体で相手とTPOを考えて、ちょっと遊び心を加える。やってみると結構楽しいよ。
ちなみに僕はあの駄菓子好きだけど。」

ニコニコと笑いながら、遠回りに「おまえモサイからちょっと考えてみー」といわれてしまったわけである。

篠原さんは俺のこと思って言ってくれたんだよなぁ。と俺は家で夕食をとりながら考えていた。
別に毎日気を張っていろというわけではなく、メリハリをつけろってこと……だよな?
そして、篠原さんの「ホワイトデーがんばってみたらいいと思うよ」という言葉が頭にひっかかっていたのだ。

「俊樹様、箸が進んでいらっしゃいませんが、お口に合いませんでしたでしょうか。」

モニターからロイドが話しかけてくる。
いけない、気がそぞろだった。

「いや、うまいよ。ごめん、ちょっと考え事してた」

「そうでしたか、失礼いたしました。」

いらん心配をかけてしまった。
ふと、ロイドならば何を選ぶのか興味がわいた。
今日一連の出来事をざっくり話してから、意見を求めてみる。

「なあ、ロイドならば何を選ぶ?」

「そうですね、駄菓子という選択も渋くて素敵だと思いますが、ちょっと珍しいものを持ち寄る会でしたら…こちらなどいかがでしょう。」
ベッとサイトが開かれる。

「こちらはフランスの有名ショコラティエの秘蔵っ子と呼ばれる若手パティシエの日本初出店ですし、
こちらはベルギーの田舎の個人経営店ですが、とてもおいしいとベルキーっ子に人気だそうです。
日本酒の酒蔵がだした日本酒ボンボンなどもいかがでしょうか。
篠原様、岸川様のお好みからするとこちらなども……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、なんでそんなこと知ってるんだ?!」

「インターネットというものは、情報の宝庫ですから。現地で人気だというお店は、卓磨様に教えていただきました。
皆様のお好みは、俊樹様のお話から推測した程度ですが……。」

なんだろうな、これが心遣いというものなのか。
思わず乾いた笑いが出てしまった。

「ロイド、もうひとつ聴いていいか。俺の服装、『やりすぎか気を抜きすぎの両極端』って言われたんだけど……そう思うか?」

「お好きなものをお召しになるのはよろしいことだと思います。が、やはり場やお相手に合わせることも必要かと。」

「たとえば?」

「特に俊樹様は、スーツや礼服が学生のようです。一着体にあったものを仕立てるべきです。
そしてカジュアルでも主役は1つに絞り、バランスをとってはいかがでしょうか。」

ばっさり切り捨てられた。
正直、ちょっと俺は立ち直れなくなりそうだった。
お前もかロイド……。
みんなで言いたいだけ言いやがって。
しょうがないだろ、前の会社では徹夜と泊り込み連発で、床で寝やすいかどうかが吹く選びの基準だったし
バレンタインデーに配られるチョコレートは軍役のレーションのようなものだったんだよ!

「ロイド、その心遣いって言うやつ、指南してくれないか。」

やってやろうじゃないか。
俺だってやればできる!

「御意。何なりと。扱きがいがありそうで嬉しゅうございます。立派な紳士に教育して差し上げます。」

ロイドはにこりと笑って背筋をまっすぐに伸ばしてゆっくり一礼する。

その後のロイドの扱きっぷりや、ホワイトデーの復讐劇については、いつか語るときがきたらお話したいと思う。

【完】

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