第2話
2012年01月31日 / カテゴリー: ナサザルカ
夢を見る。
もう忘れたいのに、けっして消えない何かがあって。
夢の中でさえ目を閉じる。
これは夢なんだ。
朝起きれば消えるはず。
そう、夢。
嘘の塊…
消える、
はずのもの。
蝶が自分になった夢を見ているのではなく、自分が蝶になった夢を見ていると、何度も何度も確かめる。
どちらを望んでいるのかなんて、もう分からなくなって久しかった。
俺は何時も冷たい牢屋にいる。
罪を犯したからじゃない。いたいからここにいる。
その牢屋には物が少ない。音も、空気も、温もりも。
俺を傷つけるモノも少ない。嘘も、欺瞞も、人さえも。
少し前の俺はなんら変わり無い情報系の専門学生だった。
日々時間に追われてて…それでも数は多くないが、友達にも恵まれて、充実している時間の中で過ごしていた。
高校からの友達とは、日々にかまけて少し疎遠だったけれど、専門の友達は皆なんだかんだいっていい奴だし、彼女も居たし。
「きっと、幸せってこういうことを言うんじゃないだろうか。」安易にそう思っていた。
今牢屋の中で俺は生きている。
自分で作った牢屋。冷たいが安全で居心地がいい。何も入ってこない、自分を守る檻。
けれど、ただひとつ、牢屋に似つかわしくないものがある。
パソコン。
自分が嫌っているはずの、外界との接触機。
切り棄てようと思っているのに、なぜか気がつくと俺は夢中でキーを叩く。静寂から逃れるように。自分が捨てたものに縋る様に。
そう、俺はコレを棄てた筈。なのに何故すがる?
俺はこれを棄てたのに。
これは俺を棄てたのに。
牢屋をつくる前、俺はいたって平凡に暮らしていた。
それがどんなに暖かかったか、そこがどんなに落ちやすいほころびがあるか知らなかった。
いたって平凡な高校生活。
朝起きて朝練で走って、授業中寝て、午後練で走ってタイム縮めて、買い食いして帰って、また飯くって自主練して風呂はいって寝る。
友達とくだらないことで馬鹿みたいに笑っていて、少しだけ勉強して、平凡でつまらないといいながら、それでも全部が楽しかった。
…だから、誰も知らない専門学校に入学したとき、内心酷く不安だった。
なんでこんなにも漠然とした不安があるのか不思議なくらいに。
入学式、ひとりで居た俺に声をかけてきた奴らがいて、そのまま友達になった。
河内と内藤は気やすい奴らで、つるんで遊んでいた。
はたから見た俺は、思いがけずできた友達に調子にのっているように見えていたかもしれない。
冷静に考えると多少行き過ぎた遊びもしたように思う。
思えば俺は必死だったんだ。
こいつらから離れたら、誰も俺を相手にしてくれないんじゃないかって。一人になるんじゃないかって。
そうして目の前にいるやつらにばかり目がいっていて、あんなにいつも一緒だった高校からの友達とは疎遠になっていった。
特に幼馴染の深谷卓磨は海外留学して以来、時差のせいもあって電話もろくにしていなかった。
それでも道で会えば話すし、たまに電話したり家に行ったりしていた。
細くはなっても、確かに縁はつながっていたはずだった。
それがある日プッツリと 切れた。
本当に、ぷっつりと。
ある日、学校帰りにコンビに寄り雑誌を買おうと棚に向かうと高校時代の部活仲間がいた。
「よぉ、関谷、なにやってんだよ。」
関谷は立ち読みしていた雑誌から目を放しこちらを見たとたん、形容しがたい表情をした。
乱暴に雑誌を置くとこちらを見もせず歩き去ろうとする。
「おい、ちょっと待てよ。おまえ関谷だろ?」
「…っ、寄るんじゃねーよ。変態が!」
出した手を勢いよく振り払われた。
関谷はコンビにを出ると足早に去っていった。
走れば追いつける。俺はスプリンターだったんだから。
「…なんなんだよ…?なぁ…戻ってこいよ…?」
振り払われた一瞬に目が合った。あの表情に名前をつけるなら、それは「嫌悪」だ。
友達であったはずの関谷。
口論はしても侮蔑・軽蔑されたことは一度だってなかった。
その場で立ち竦んだ。
ふと不安に駆られ、何人かの友達に電話をしてみる。
俺がいくら電話しても居留守は決め込む、家にいっても出てこない、道端で会ったら血相変えて逃げる奴まで居た。
わけも分からず途方にくれて、もういいやなんて思ってしまった。
そうして、何時か俺の近くに居るのは河内と内藤だけになっていた。
そんなある日、一通のメールが届いた。
アドレスは、卓磨のものだった。
しばし悩んで、恐る恐る開けてみる。文章は何もない。
ただ、ぽつんと、どこかのホームページのアドレスが、静かに横たわるだけだった。
「…………見てみろって………?」
あったはずの、最後の友情の力に賭けて。
ゆっくりと、クリックした。
【 第2話/終 】











